『現代のことば』

余った薬 99.1.29

 引き出しを整理したら、薬が山ほどでてきた。売薬ではない。子供達が風邪をひいたり、私が血圧をあげたりするたびに医院でもらった薬だ。こうした薬も最後までのみ切ることはめったにないので、いつのまにかたまってしまったものらしい。「服用しなかった薬は捨ててください」というのが、医師の公式見解のようだが、薬を生ゴミや紙おむつと一緒に捨てるというのはどうにも抵抗がある。とりあえず、薬を医院の薬袋から出して、同じ物をまとめて、整理してみた。

 そのうち興味が湧いて、残ったのはどんな薬なのか「医者からもらった薬がわかる本」で効能や用途を調べてみた。解熱鎮痛剤が多く、抗炎症剤、それに抗生物質も結構あった。これらは要するに風邪の薬だ。子供が風邪をひく度に薬を3日分ぐらいもらうが、子供はたいがい一晩寝たら直ってしまうから、いつも2日分は薬が残ってしまうのである。他に胃薬や血圧の薬、それに皮膚科でもらったステロイド軟膏などもあった。

 それにしても、抗生物質が結構残っているのは意外だった。この調子では、全国の家庭からゴミとして出される抗生物質は大変な量になるだろう。こうした抗生物質のほんのわずかでもあれば、大勢の途上国の赤ちゃんが救えるのにと思ってみたりする。多くの途上国では生まれてきたものの衛生状態の悪さや薬の不足から大勢の赤ちゃんが死んでいっているのだ。

 それにと思う。こうして捨てられる薬の大部分が医療保険で購われたものだ。保険財政が破綻するはずだ。薬品メーカーには悪いが、もっと必要なところに必要なだけ薬が行き渡るようなシステムはできないものだろうか。昔の置き薬のように使った分だけ料金を払うというようなシステムでもいいだろうし、あるいは飲み残した薬はまた薬局で引き取るというようなことでもいい。薬の引き取りをその場で現金でおこなったりすれば、また悪用する輩がでないとも限らないから、健康保険組合にもどして厚生事業にあてるとか、開発途上国の医療援助にあてるとかでもいいかもしれない。単純にはいかないことだとは思う。実際問題、一旦、患者にわたった薬をひきあげて再利用などというのは現実的ではないだろう。だが、なんとかうまいシステムができないものか。

 整理はしてみたものの、残った薬は結局捨てた。やはり、医師の処方した薬を素人が勝手に使用できるものではない。第一、抗生物質やステロイド軟膏などを残して置いて、子供が間違えてのんだり、塗ったりしたら危い。今は再利用のシステムがない以上どうにもしようがないが、薬をゴミ箱に捨てるとき、テレビで見た、ベッドに横たわりやせ細ったある開発途上国子供の顔がちらついてしかたがなかった。あの子は無事に育っただろうか。

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