『現代のことば』

オン・デマンド印刷 99.5.26

 表題のことば、まだ、一般には耳慣れない言葉だと思う。オン・デマンドとは需要があり次第という意味で、これに印刷を合体させると「必要な時に、必要な部数を印刷」するという印刷方式という意味になる。

 なんだ、当たり前だと思われるかもしれない。実はこれは画期的なことなのである。今までの印刷というのは、「必要であろうがなかろうが、とにかく大量に刷っておく」という傾向が強かった。というのも、印刷は量産効果があらわれやすく、大量に刷れば刷るほど単価が安くなるからだ。そこで、少々無駄であろうが、必要量の上限まで刷るというようなことがまかり通ってきた。なにしろ今の印刷速度は驚異的で、この文章を刷っているであろう新聞輪転はたぶん一時間一〇万枚というような速度をだしているはずだ。

 反面、少部数印刷は置き去りにされてしまった。印刷機がとにかく大量、高速一点張りで進化し、印刷業者も大部数の仕事ばかりをありがたがるからだ。少部数印刷が不可能だというわけではない、ただ、きわめて割高になってしまうのは否めなかった。

 ここへオン・デマンド印刷が登場してきた。必要なときに必要な部数のみを刷る。しかも、少部数でも単価は大量に刷ったときとそれほどかわらない。からくりの肝はコンピュータである。すでに印刷工程のかなりの部分がコンピュータ化されているのは御存知のことと思うが、オン・デマンド印刷はこのコンピュータ技術をつきつめ、入り口だけでなく出口の部分をも完全にコンピュータで制御してしまうことで可能になった。

 たとえていえば、ワープロの文書出力をプリンタから印刷機にかえてしまったようなものなのだ。普通、ワープロでは一枚出力してから、別途印刷して必要部数を得る訳だが、この間の過程を省略して、一気にワープロから必要枚数印刷してしまうと考えればいい。

 オン・デマンド印刷は少部数出版の可能性を大きく開いた。たとえば、学術書の世界では、ページ数が膨大で、部数はごく少量というような本が必要とされる。こういった本は、今までの印刷がもっとも苦手としてきた。印刷代が割高なため、出版が断念されるという例もしばしばだったが、オン・デマンド印刷でそういった本でも日の目を見る可能性がでてきた。他に、インターネットなどで注文を受け付けた上で、必要な部数だけ印刷し、在庫をもたないというブックス・オン・デマンドといったこころみも可能になるだろうし、本の流通の仕組みを根本から変えてしまうような使い方ができるかもしれない。

 今、オン・デマンド印刷をはじめ、21世紀を目前にして、次世代の技術が着々と産み出されている。ただ、これらは大量生産、大量消費という今までの技術発展のありようとはすこし様相が違っている。それは強力な経済の牽引車にはなれないかもしれないが、静かにしかし確実に経済のあり方をかえていくだろう。

次のページを読む
メニュー画面へ戻る