睡眠時無呼吸症候群とつきあおう
1.私は病気? 症状と診断
睡眠時無呼吸症候群(SAS)なんてたいそうな名前はついているけれど、この病気の症状は以前から知っていました。「大いびきの途中で呼吸がびたっととまり、また大いびき、そしてまた呼吸がとまるをくりかえす」です。父が明らかにそうだったのです。父はでっぷり太って、すごいいびきをかく人でした。そのすさまじさは母からよく聞かされていた物ですし、実際、私も聞いていました。それこそ地の底からひびくような大音量なのです。そして、それが突然とまる。2・30秒して呼吸が再開するときはすごく苦しそうでした。いまから思えば、あれは睡眠時無呼吸症候群そのものだったのです。
私が似た症状であるのは、妻から聞かされました。寝ている最中に呼吸がとまっている。すごく苦しそう。それにいびきがひどいとも。
いびきぐらいなら、いわば笑い話の領域で、妻があまりのいびきにたえかねて蹴ったとか、鼻をつまんでとめたとかそういう話を朝に笑いながら話していたものです。しかしそれはどんどん笑い話ではすまなくなってきました。ご存じのように、睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸がとまるのが主症状ですが、実はこの間睡眠が十分とれていないのです。本人は寝ていると思っていても眠りがすごく浅い。実際、夜中に何度も起きるというようなことをくりかえします。結果として日中の眠気がひどいのです。
私もこれが病気だと認識したのは、この眠気でした。そういえば父も昼間しょっちゅう寝ていました。父は社長でしたから、社長室で居眠りしていても誰もとがめなかったのですが、それは社員中の評判でもありました。たぶん、父も睡眠時無呼吸症候群による眠気におそわれていたのでしょう。私ももともと昼食後に眠気におそわれることがあったのですが、40をすぎたころからはどんどんひどくなり、運転していても、猛烈な眠気がくるというようなことがおこるようになってきました。決定的にあぶないなと思ったのは、仕事で遅くなった晩、運転していて突然目の前に車がせまっていたことでした。おそらく、運転しながら瞬間、眠っていたのだと思います。その瞬間の記憶がないので、車が突然目の前にせまってくるように思えたのでしょう。幸い大事にはいたりませんでしたが、これはもう夜は運転できないなと思った事件でした。
睡眠時無呼吸症候群は、新幹線の居眠り運転(2003年2月)事件で知っていました。JR西日本の新幹線運転士が31キロ新幹線を居眠り運転していたこの事件は、数日たってこの運転士が睡眠時無呼吸症候群だったことが発表され世間の耳目を集めました。そのときにこの症状が完全に父や私にあてはまるということも、気が付いていました。
それでも、病院に行くのはなかなかおっくうなもの。私の交通事故寸前事件を心配した家内にせかされて、実際に病院をたずねたのは2004年になってからのことでした。近所のかかりつけの医師に紹介されたのが、京都駅前武田病院の「睡眠時無呼吸症候群外来」だったのです。
「睡眠時無呼吸症候群外来」は面白い光景でした。睡眠時無呼吸症候群はのどの肉が太くなって気道を塞ぐ病気ですので肥満の男性に多いのです。従って、その待合いはおでぶさんばっかり。しかもこの病気は「痛い」とか「熱が出る」というような差し迫った症状はでませんから、全体になごやかです。表現としてはよくないかもしれませんが、ユーモラスな待合いでした。この話をあとで家内にすると大笑いされました。
さて、かたどおりの血圧測定やレントゲン検査などをして、医師の問診がありまして、「眠気が強くて事故にあいそうになった」とか「家内がいびきがとまっていると話している」などの症状を訴えました。医師は、それをふんふんと聞いてから、
「とりあえず入院して検査しましょうか」
と言うのです。
「入院」の声にこちらはびっくり、なにせ中学生の時に虫垂炎で手術、入院して以来、入院などしたことがない。もちろん、入院の見舞いや介護はやりましたが、まああんまり印象のいいものではありませんよ。私の困惑の表情をみてとったか医師は
「いや、入院といっても一泊だけ。仕事が終わってから入院して、翌朝早く退院。そのまま出勤できますよ」
とおっしゃるのです。なんでも、問診だけではよくわからないので、寝ている状態を一晩記録するのだとか。全身、電極をつけられるけど、別に痛くもなんともないというので安心。しかし、電極をつけて電線まきにされて寝られるものだろうか。
ちょっと入院というのも大げさかなとも思ったけれど、それをやらないとまったく話がすすまないので、一泊検査をうけることにしました。入院自体はこの病院の系列の別の病院でやるとのこと。まあ、どうなりますことやら。
入院当日、ギリギリまで仕事して、自分で車も運転して入院。ちょっと遠いので、結局まったく一人での入院とあいなりました。夜の早い病院は到着した7時ころにはすっかり動きがとまっています。受付にももう誰もいない。ようやっとでてきた当直らしき人に、睡眠時無呼吸症候群の検査というと手慣れた感じで、手続きしてくれました。この時点でお金も払ってしまい、翌朝はなんにもせず、さっさとかえってしまっていいとのこと。今まで、家族の入院なんかで、退院の日に会計でてまどったりした経験からすると、合理的で便利です。
入院は個室。なんせいびきがすごい人ばっかりですから、相部屋にはできないそうなのです。従って、すくなくとも差額ベッド料はかかります。あとで検査士がくるそうなので、ここでちょっと時間があく。実は、この入院にはひとつ不安な点がありました。今回の検査、体中を電極やなんかでぐるぐる巻にされるのですが、それが簡単にははずれない。つまりベッドに寝ているしかないということなのです。トイレでおきたり、水を飲んだりのときも、いちいち看護士さんを呼ぶとのこと。実は、私、このころ一晩に4・5回、トイレに目が覚め、喉が渇いて水を飲むということを繰り返していたのです。あとから考えれば、これも睡眠時無呼吸症候群の症状のひとつだったのですが、このときはそうとは知りません。こんなことで健康な男性が看護士さんにいいちお世話になるのも恥ずかしいなというところで、なんとか自分で対策しようと考えていたのです。とりあえず、検査を待っている間に真向かいのコンビニでペットボトルの水と紙コップを買ってきました。喉が渇いたら、ペットボトル。紙コップはいざとなったらここにと考えたわけです。
1時間ぐらいして、看護士さん来(検査技師だったのかもしれない)。とにかく、体中に電極をつけられます。両手両足、それに頭中です。とりつけに約1時間。この状態となると、本当に寝返りもうてないというか、寝返りするだけで、検査技師さんの方にわかってしまうそうです。こ時点でペットボトルと紙コップはあきらめ、おとなしく看護士さんの世話になることに覚悟を決めました。ただ、寝たままではなくて、一応、電極はコンセントのようになっていて、簡単とはいえませんが、はずれます。トイレのときは、このコンセントをはずして、電極を体中にぶらさげたまま歩いていけるそうで、まあ安心。どういう状態かは記念写真を撮っておきましたんで、ごらんください。

こんなんで寝られるものかと思うところですが、実は隣の部屋からはすさまじい大いびきが聞こえてくるのです。本当の無呼吸症候群というのは、こんな状態でも寝られるようなすさまじい眠気の持ち主ではないかと、ちょっと後悔。実は、私は睡眠時無呼吸症候群でもなんでもなくてあとで恥をかくのではと思ってしまいました。まあ、それならそれでよいわけですけれど。
グルグル巻きのまま、「さあ寝てください」と言われましたが、この時点でもせいぜい9時。いつも寝る時間よりは早すぎるし、妙に興奮しているので、一向に眠気がこない。本でも読むことにしました。そのうち、この状態で水がのめるものかと、体をおこしてみましたら、ただちに看護士さんが飛んできました。どうやら、常時機械を通じて、監視されているようなのです。観念。
それでも11時ころにはちょっと眠くなったので、目をつぶると、どうやら寝てしまったようです。しかしやはりいつもの癖のように、1・2時間で目が覚め、トイレ。看護士さんに連絡してきてもらい、電極をつけたままトイレへ。夜の病院は、なにか不気味です。24時間介護状態の重体の患者さんの部屋があったり、なんか重病になった気分。
何回か、そんなことを繰り返したかな。そのたびに、嫌な顔ひとつせず、電極をはずし、またつけてくれた看護士さんに感謝。
明け方にちょっとまとまって寝たら、もう看護士さんに起こされました。午前6時。検査終了だそうです。ちゃんとデータがとれたのか、さっぱりわかりませんが、あとは着替えして、かえるだけ。出勤には時間が早いくらいですけど、病院て、そんなに長く居たいところでもないので、早々に退散いたしました。
2週間ほどして、病院に結果を聞きに行きました。なんかしょっちゅう起きてたし、隣の大いびきの人ほどいびきもかかなかったし、「結果、なんともありません」と言われるぐらいならまだしも、「検査失敗です。もう一晩」と言われるかもなあと思っていましたが、なんのなんの。
「確かに睡眠時無呼吸症候群」ですとのご託宣。グラフを見せられて納得いたしました。あとで、直った後のグラフと比較して、よくわかるのですが、眠りが浅いし、なにより、血中の酸素飽和度がさがっているとのこと。やはりこれは治療対象だというのです。
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| ←眠りが浅い。頻繁に起きている | |||||
| ←息ができないので、血中酸素が低下 | |||||
| ←一晩中、いびきをかいている | |||||
| ←しょっちゅう、呼吸が止まっている | |||||
10秒以上呼吸のとまる無呼吸状態が一晩に287回、低呼吸(換気が50%以下 意味はよくわかりません)との合計数が376回 1時間あたりの指数AHI(Apnea Hypopnea Index) 68.8というのは重症ですね。 「もう一度、今度は器具をつけて、寝てもらいましょうか」
と、先生はにっこりほほえんで、おっしゃったのでした。
さて、さらに2週間、また同じ病院に入院です。今度はもう慣れた物。様子もよくわかっている。前回のようにやはりぐるぐる巻にされて、今回は、CPAPという装置をつけて寝るのです。写真のようなマスク状のもので、このマスクに普通の空気が送り込まれてきます。送り込む装置は空気を送り込むだけですから、そんなに大げさなものではありません。

実際に作動されてみると、空気がどんどん送り込まれてくるので、息を吐くのがちょっと苦しい感じがしますが、痛くも痒くもない。さて、シューッという音とともに天井の電灯が消されると、実にあっというまに眠ってしまったのです。このときは、途中で目が覚めたら遠慮無く看護士さんを呼べばいいというのも気が楽でしたが。
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なんと、そのまま朝までまったく目がさめなかったのです。もう、何年も途中で目が覚めては、水を飲んで寝るということを繰り返していたので、新鮮でした。眠気は、残っているのかどうか。これはわかりません。睡眠時無呼吸症候群の時でも、すくなくとも朝はさわやかにめざめていましたからね。
その日もそのまま出勤。
そして、驚いたことに、いつも悩まされていた午後の激しい眠気がない。CPAPが効くという先入観で効いたような気がしているだけとも思いましたが、夜になっても、あまり眠くならないのです。これは効いているとしか思えない。たった一晩の検査装着でこれなのです。すさまじい治療効果!!
その時の検査結果はやはり予想通り、眠りの質が劇的に改善されていたのです。グラフの通りです。そして、68.8だったAHI(Apnea Hypopnea Index)は7.0。なんと10分の1に改善していました。
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| ←眠りが深い。一度寝たら朝まで起きない | |||||||
| ←息ができているので、血中酸素が低下しない | |||||||
| ←いびきが激減している | |||||||
| ←無呼吸症状がほぼ消失 | |||||||