理事長からのメッセージ
2008年へ向けて
日本細菌学会理事長 笹川千尋
今期理事会も早いもので余すところ一年となりました。本年も皆様とともに本学会のさらなる発展を目指して歩む所存でございます。どうかよろしくお願いいたします。
昨年は、この紙面をお借りして学会が早急に解決すべき重要課題をお示しし、またそれらに対する理事会の基本方針について提案させていただきました。昨年は、おかげさまで会員の方々のご理解とご支援により、多くの課題を解決できましたので、この機会に進捗状況を報告させていただきます。
さてその前に、本学会を取り巻く社会状況について、私見を少し述べさせていただきます。現在、世界規模でエネルギー、食料、環境問題など、社会基盤を揺るがしかねない問題に私達は直面しつつあります。それに加えて、我が国の国際社会における相対的な競争力、経済力、発言力が次第に低下し、これまでの国力を今後も維持できるかどうかにも疑問符がつけられています。このような状況は、社会のみならず、大学、研究機関、大学病院、研究活動、人材育成、ひいては学会活動など、多岐に影響が及ぶことは必至です。私も最近は、政治、経済に関する報道を以前より注意深くみるようになりました。最近興味深く読んだ新聞記事に、日済新聞の「YEN漂流」という連載がありました。この連載では日本経済や国力の低迷の原因となった背景を、さまざまな角度で素人にも分かりやすく解説しています。このなかで、「我が国はバブル崩壊の経済再生で導入した新しい経済システムを消化しきれずストレスを抱えている」という一文(1月12日)が心に残りました。この一文に類似する現象は身近なところにもあるようにも思います。例えばそのなかの「新しい経済システム」を、「国立大学の運営交付金制度」、「評価制度」、「任期制度」、「大学の国際化」、「卒後研修制度」、「男女共同参画」等、多くの問題に読み替えることもできます。国立大学も法人化後、新たな制度や仕組みが次々に導入されましたが、あるものは未消化のまま施行され、あるものは形骸化し、あるものは人々にストレスを与え、我々はその恩恵を素直に感じることができない状態にあるように思えます。自ら必要な制度改革を提案することもなく、受け身的に新たな制度を一方向に導入してきたところに、我々の責任の一端があることは十分承知しています。また短期間に新たな制度で成果が出るものでもないことも理解しています。しかし、我々が大学で直面している多くの問題が、今の日本社会の状況と重なり、歯がゆさを感じざるのは私だけではないと思います。
このようなことを案じながら、年頭に本学会の将来を考えると、少し希望が湧いてきます。例えば、学会の諸問題の解決や改正感染症法制定に対する取り組みで示されたように、学会内部の結束が強まり、また知識集団として社会貢献への重要性に対する認識もさらに深まったように思います。学会でこのような一連の迅速な行動が行われ成果が見えてきたのは、各担当理事の並々ならぬ努力とともに、各種委員会メンバー、各支部会、評議員の方々、ならびに会員皆様の、学会改革への熱意に依るものが大きいと実感させられました。事実、前理事会で決定された年会費値上げや、今回の支部会への配分費削減等、改革に伴う痛みにも理解を得られたことは、その表れではないかと思います。また「継続は力なり」と言われるように、皆様が良いと思われる制度が学会内で次第に定着し、また学会としての経験となり、さらにそれらを踏まえて改良を加えることもできるようになりました。例えば年次総会においては、国際シンポジウムが定着し、またワークショップに学会外から優れた研究者を多く招くことも可能となりました。年次総会運営のフォーマット化も定着し、研究発表の中身そのものにより多くのエネルギーを注ぐことができるようになりました。また海外演者の招待でも、年々招待のノウハウが蓄積され、一流の海外研究者を総会準備経費の範囲で呼べるようになりました。将来は、年次総会のワークショップやポスター発表も英文・和文併記が定着できれば、アジアをはじめとする世界の若い研究者との交流や共同研究がさらに活発になるのではないかと思います。結果として、年次総会の雰囲気もより国際色豊かなものとなり、同時に国内からも多様な研究者が参加するようになるのではないでしょうか。
国際化に関連することとして、ご報告が二点あります。昨年、篠田前理事らの努力により日本ウイルス学会および他の微生物関連学会と連携して、日本微生物学連盟(FMS JAPAN、野本明男代表)が設立されました。この設立には、柴田理事、光山前理事、平山理事らの尽力による日本学術会議微生物分科会およびIUMS2011準備委員会との連携が背景にあります。FMS JAPANの創立により、微生物研究ネットワークが構築され、また国外との学術交流の受け皿にもなり、我が国の微生物学分野の将来にとって明るいニュースとなりました。一方、本学会では、これまで隔年毎に日韓共催による微生物シンポジウムが開催され、本年10月には第9回が韓国ソウルで開催されます。平山理事およびこれまでの担当歴代理事とともに韓国微生物学の関係各位の長年におよぶ地道な交流により、日韓シンポジウムも回を重ねる毎にレベルアップし、若い研究者が気軽に国際集会の雰囲気を体験できる貴重な場所となってきました。このような背景で、本学会としてもFMS Japanと日韓シンポジウムを今後とも支援をする所存です。
国際化に関連する二点目は、Microbiology and Immunology (MI)誌のWiley-Blackwell社からの出版です。ご存知のように、本学会は、日本ウイルス学会理事長(野本明男先生)および日本生体防御学会理事長(光山正雄先生)とともに、昨年11月にWiley-Blackwell社との間で正式なMI誌の出版契約を締結し、3年毎に契約更新することになりました。これにより、投稿・査読・編集作業はすべてオンライン化され、また本学会会員は原則として本誌をオンラインで自由に見ることができます。MI誌には3名のeditor-in-chief(編集委員長)が置かれ、本年の総編集委員長(principal editor-in-chief)には本学会の高田春比古理事が、またウイルス担当編集委員長には脇田隆字先生(国立感染研)と免疫担当編集委員長には中村三千男先生(長崎大熱研)が就任されます。またeditorial board(MI誌ではassociate editorと呼ぶ)も各学会から選抜された総勢32名のメンバーで構成されます。今後は、editorial boardに国外からも参加を求め、本格的な国際誌を目指します。したがって、会員の方々から優れた論文が本誌へ多数投稿されることが今後の発展には極めて重要です。どうかご支援をよろしくお願いいたします。また、これまでMI誌の編集に尽力された名古屋市立大学名誉教授の岡田秀親先生ならびに旧編集員の方々には、この場をお借りして心より感謝申し上げます。
「日本細菌学雑誌」にとっても本年は節目となります。学会の若い世代の要求と経費削減の必要もあり、これまでお知らせしてきたように本年からオンラインジャーナル化が実施されます。同時にホームページもリニューアルして、その運用も細菌学雑誌のオンラインジャーナルとともに中西印刷へ委託することになりました。これを機会に、小崎理事、堀口理事、阿部理事らに、ホームページをさらに広く活用していただけるよう改良を依頼しております。細菌学雑誌の第1号(総会号)は従来どおり郵送いたしますが、残る第2-4号の総説論文はホームページを通じてJ-Stage(科学技術振興機構が運営する学協会のための電子ジャーナル共同利用センター)から見ていただくことになります。但し、第2-4号は一冊に合本して、次年度の第1号とともに会員皆様へ配布いたします。一方、学会総会案内、支部会等など学会に関連するすべての情報はホームページを通じてお届けすることになります。このオンラインジャーナル化に関連して良いニュースがございます。高田理事の努力により、J-Stageで日本細菌学雑誌とその前身誌の歴史価値が高く評価され、明治時代の前身誌が創刊号以来すべて最終的にアーカイブ化されることになりました。また日本細菌学雑誌のアーカイブ化のために太田理事が所蔵の雑誌を寄贈して下さいました。アーカイブ化のための論文収録には少し時間がかかりますが、本学会の歴史とともに歩んできた細菌学研究の歴史が、J-Stageで保存・公開されることは、本学会としても大変喜ばしいことです。
昨年、桜井理事のもとに刊行した「微生物学用語集」の販売も堅調です。一方、バイオセーフティ委員会による「病原細菌に関するバイオセーフティマニュアル」も、昨年の改正感染症法の施行を受けて、荒川理事と篠田前理事の努力により年末にほぼ完成することができました。また細菌学実習における安全対策に対する「細菌学実習時の実習室感染防止マニュアル」も平行して作成され、ホームページを通じて開示されました。この機会に、両マニュアルの執筆を担当されたバイオセーフティ委員会委員の方々と貴重なご意見をお送り下さった関係各位に、この場をお借りして心より感謝いたします。一方、辻理事による細菌学教育の映像化も、改版にむけてあらたな作業が行われております。どうか素材提供にも格別のご協力をお願いいたします。
以上、学会を取り巻く社会情勢から学会の細部に及ぶ諸問題について、一部私見を交えてご報告させていただきました。私ども理事会では、皆様とともに力をあわせて、本年も学術交流と社会への情報発信をさらに促進するために、学会機能の整備、改善、強化に取り組んで参ります。本年は、今期理事会活動の総まとめを行う年となりましたが、これまで二期の理事会を通じて築いてきた学会の改革と将来への道筋を、次期理事会でさらなる発展に繋がるよう願っております。皆様から忌憚のないご意見をいただき、また我々自身も学会を自己点検しながら改善の努力を続ける所存でございます。どうかよろしくお願い申しあげます。
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