全国大学国語国文学会賞
受賞者の所属は、受賞当時のものです。
第五回全国大学国語国文学会賞 平成22(2010)年度
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星山健氏 (宮城学院女子大学教授) 『王朝物語史論-引用の『源氏物語』-』 (笠間書院刊、2008年) |
■第五回全国大学国語国文学会賞選考経過および選考理由
選考委員長 三角 洋一
第五回全国大学国語国文学会賞の選考経過は以下の通りである。応募件数は、最終的には5件であったが、うち1件は昨年11月の刊行であったため、次年度の候補作に回すこととなった。4件の内訳は、中古文学3件、近代文学1件であった。
選考委員は、上野誠(奈良大学・継続)、室城秀之(白百合女子大学・新規)、田渕句美子(早稲田大学・継続)、佐伯孝弘(清泉女子大学・継続)、金子幸代(富山大学・新規)、原国人(中京大学・国語)の6氏に、常任委員の上野誠(重複)、三角洋一が加わり、三角が委員長をつとめた。
選考委員会の発足は本来昨年10月からであるべきところ、新規の委員について常任委員会による承認を得るのに不手際があって、正式には12月から選考に入った。その時点では、候補作は中古2件、近代1件で、あらかじめ候補作一覧と推薦書を全委員に送付し、研究室ないし大学で閲覧できるようにお願いするとともに、その時代を専門とする室城、金子両委員と、中古に詳しい原委員には査読を依頼し、コメントをいただくことにした。
本年1月未には、候補作3件のそれぞれ一章分ほどのコピーと査読結果のコメントを全委員に送付し、必要があれば意見書を提出していただくことにした。2月中旬になってから、新たに自薦による中古の応募作1件があったため、時間的な制約もあって、委員長の三角が査読結果のコメントを付し、一章分ほどのコピーとともに全委員に送付した。
選考委員会は年度末の3月29日(月)に東京大学教養学部14号館研究棟で開かれた。やむを得ず欠席された3委員からは事前に書面にて意見をいただいた。慎重に審議した結果、選考委員会としては、
星山健氏『王朝物語史論-引用の『源氏物語』-』
(笠間書院、平成二〇年一二月二五日刊)
を授賞作に推薦することが決定された。星山氏は昭和40(1965)年生まれで選考の対象となった一昨年の時点で43歳、現職は宮城学院女子大学教授である。『王朝物語史論』の内容と構成の概要は次の通りである。
第Ⅰ部 『源氏物語』の達成-人物造型と物語引用
第一編 光源氏像の形成-超越的主人公たらしめるもの(三章からなる)
第二編 主人公を取り巻く者達の政治性-内大臣と宇治中君(三章)
第三編 脇役的人物の造型-局面性と一貫性、あるいは歴史引用と物語引用
(二章)
第四編 『源氏物語』における『源氏物語』引用(二章)
第Ⅱ部 物語の行方-『源氏物語』引用の諸相
第一編 『源氏物語』超克の試み-後期物語論(二章)
第二編 『源氏物語』的恋愛観からの離反-『今とりかへばや』論(四章)
附 批評する物語、『無名草子』(二章。総計十八章)
星山氏の著書は副題に「引用の『源氏物語』」とあるように、「引用」という概念を中心に据えて、『源氏物語』以前の物語から『源氏物語』へ、さらに、『源氏物語』から平安後期・末期物語へと展開してゆく王朝物語史を、物語の詞・表現に即しながら構築してゆく広く大きな視野に立ったものとなっている。論証の過程では、先行論文の問題点を指摘しながら、鋭い批判の目を向けて分析したうえで妥当な結論をみちびくという、オーソドックスだが学問的な良心を感じさせる著作である。
具体的に挙げれば、第Ⅰ部第二編の第一章「「藤裏葉」巻論-「人にはことなる」内大臣の対光源氏意識の変化に着目して」は、「文学・語学」第190号(平成20年3月)に掲載された論文をもとにしているが、これは第二章「「若菜上」巻以降における太政大臣-皇女降嫁への執着と柏木の死、そして政治の物語の終焉」と密接な連関があって、『源氏物語』の三部構成説における第一部の最終巻である「藤裏葉」巻に描かれる、光源氏の息子夕霧と頭中将の娘雲居雁の結婚を、光源氏と頭中将の長年の確執の解消を語るものとする従来の通説に対して異を唱えたもので、星山氏はそこまでは言っていないが、三部構成説そのものに対する異議申し立てにもなっていると思われる。
王朝物語を縦断する論として、第Ⅱ部第四章「王朝物語史上における『今とりかへばや』「心強き」 女君の系譜、そして、(女の物語)の終蔦」(初出は「国語と国文学」平成一八年四月)は、『竹取物語』『宇津保物語』『源氏物語』『夜の寝覚』を通して見られる「心強き」女君たちの系譜を、用例を丹念に分析しながら、「心強し」の語が、「王朝物語における女の生きがたさの歴史とともに存在するのである」と結論づけている。そして、そのような〈女の物語〉としての王朝物語のあり方に幕を下ろしたのが『今とりかへばや』で、それが古本とは異なる今本独自の要素として分析することで、『今とりかへばや』が王朝物語史の転換点に位置する作品であることを明らかにしている。
選考委員会においては多くの委員が、星山氏の著作を明解で説得力をもつものとして推奨した。「史論」といいながら、「引用」という問題に限られていて、明確な「史観」が感じられないという厳しい意見もあったが、星山氏の態度と方向にはさらなる発展が見込まれ、大きく王朝物語史を書き換える可能性を秘めているという好意的な評価もあって、最終的には今後への期待も込めて、本学会賞にふさわしい著作であるとの判断に達した。
選考経過および選考理由は以上の通りであるが、選考過程で問題となった点について付言しておきたい。第一点は、学会賞の存在を広く知らしめ、自薦・他薦の応募作がもっと増えるように努力する必要があるということで、選考委員が率先して応募対象となりそうな著書・論文に注意を向け、場合によってはなにがしかの働きかけをも心がけることが話し合われたが、また事務局、常任委員、委員をはじめとして、ちょっとした機会にPRしていただくことを要望したい。第二点は、今回、審査対象の範囲内にある著作が審査期間のほとんど最終段階で応募してきたことが問題となり、応募についても締切り日をもうける必要があると痛感したことである。募集の記事に、「随時受付けていますが、締切りは当該年の11月末日とします」を追加することを、常任委員会にお諮りしたい。
第四回全国大学国語国文学会賞 平成21(2009)年度
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永田英理氏 (明星大学・武蔵野大学・白百合女子大学非常勤講師) 『蕉風俳論の付合文芸史的研究』 (ぺりかん社刊、2007年) |
■第四回全国大学国語国文学会賞選考経過および選考理由
選考委員長 神野藤昭夫
第四回全国大学国語国文学会賞にあたっては、同賞選考委員会を、平成21年3月28日に、跡見学園女子大学文京キャンパス一号館において開催し、永田英理氏の業績を授賞候補とすることで一致をみた。ついで、全国大学国語国文学会賞規程第七条六項により、4月11日に、國學院大学において開催された全国大学国語国文学会常任委員会において承認を求め、その結果を6月6日に明治大学リバティータワーを会場として開催された夏季大会における委員会において報告、7日に授賞式を行ったところである。
以下、経過のあらましを補足する。
昨年夏季大会以降、本賞への応募件数は、2件。うち、1件は、昨2008年10月の刊行であった。規程第四条に「当年度九月までに公表された」ものと規定されており、今回の候補作としては選考対象から除外し、次年度(第五回)の選考候補作となることを確認したうえで、実質、1件について選考を行った。
選考委員は、文学・語学の時代順に述べると、上野誠(奈良大学・新規)、原岡文子(聖心女子大学・継続)、田渕句美子(早稲田大学・新規)、佐伯孝弘(清泉女子大学・新規)、小泉浩一郎(東海大学・継続)、糸井通浩(京都光華女子大学・継続)の6氏に、委員長として、規程により総務担当の常任委員神野藤昭夫(跡見学園女子大学・継続)が加わった。
折からの繁忙期のため、常任委員会の開催が4月に延びざるをえなかったように、選考委員会も当日の出席は3名にとどまったが、他の選考委員には、事前に書面による詳細な意見ならびに委任状を提出いただき、慎重かつ厳正に選考を行ったところである。
選考委員会が候補著作として選考したのは、次の研究業績である。
永田英理『蕉風俳論の付合文芸史的研究』(ぺりかん社 2007年2月28日発行)
永田英理氏は、生年は、昭和52年(1977)。同書の刊行当時は、二十九歳という若さであり、刊行期間についても規程上問題のないことを確認した。応募時点における同氏の肩書は、明星大学・武蔵野大学・白百合女子大学の非常勤講師である。
選考では、はじめに、書面による各委員の意見を紹介し、出席委員各位が見解を述べ、ついで審議に入り、活発な意見交換ののちに、永田氏の著作を授賞候補作とすることに、全委員が一致して賛成したところである。
次に、永田氏の著作の選考理由の骨子を述べる。
永田氏の著作の大要は、次のような構成からなる。
第Ⅰ部 蕉風連句の分析とその方法
第一章 蕉門の式目・作法観
第一節 蕉門の式目観――許六と支考――
第二節 『去来抄』「故実」篇にみる式目・作法観
第二章 「恋離れの句」考
第三章 連句一巻総評論
第Ⅱ部 支考の「七名八体」説の付合文芸史的考察
第一章 座の文芸理論――支考の「七名八体」説の浸透と変質――
第二章 蕉風連句における「有心付」の検証――「有心付」は「匂付」にあらず――
第三章 蕉風連句における「起情」の手法をめぐって
第四章 蕉風俳論における付合用語としての「会釈(あしらひ)」の変遷
第五章 「色立」という手法
第一節 「色立」の付合文芸史的考察
第二節 色彩表現と俳諧――「色立」の手法の転用をめぐって――
第六章 「拍子」考――句調論から付合論へ――
第Ⅲ部 蕉風発句論への視座――「題」「本意」と「実感」「実情」と――
第一章 蕉風俳論における「本意」の一考察
第二章 「題」の俳論史――詞の題、心の題――
第三章 詩人芭蕉 感性の覚醒―― 発句表現における「触覚」のはたらき――
全331頁に及ぶ永田氏の著作の大筋は、蕉風連句の評価を、俳論という物差しをもって試みるものであるといえる。しかもその俳論については、さらに歌論・連歌論をも視野に収め、広く渉猟、俯瞰したうえで、付合の理論とその手法の史的検証をしようとしたところに大きな特色と価値がある。
いわば、理論と実作との関係に留意することによって、たんなる主観的な鑑賞批評ではなく、付合に関する俳論や作法書を確認しながら実作品を分析するという明確な方法意識をもち、そのうえに立って分析を行っている。
しかもその論は、実証的で手堅い研究方法にもとづく一方、第Ⅲ部の「詩人芭蕉 感性覚醒」の論では、西洋の認知科学における「体性感覚」という理論を用いて、芭蕉の句の視覚と触覚を融合させた感覚の鋭さを確認するなど、方法論における革新的で学際的な意識や柔軟さも持ち合わせている。
いずれの論も、先行論文をきちんと踏まえ、その論の運びも明解にして老練でさえあるといえる。
こうした大局的な見地からの評価のみならず、専門領域の委員からは、新見と認められる点の具体的な指摘が逐一、列挙され、審議の参考に供せられたことをここでは付記するにとどめる。
審議経過においては、和歌・連歌をも包括する視野を広さを評価する一方、詩歌史全般にわたる場合の分析方法についての要望が求められたり、新たな研究視点を評価する一方、現時点ではなお論じ方が十分でないとの意見など、いわば楯の両面について活発な意見が行われた。
結論として、明確な方法意識をもって、実証的でかつ柔軟、明解に問題を論じ、これを広い視野で論じることによって、蕉風研究のみならず、日本の詩歌史における新たな研究側面をきりひらいた業績として、本学会賞にふさわしい著作であるとの判断に達したところである。
選考経過および選考理由は、以上のとおりであるが、選考過程で問題となった点について、委員長の立場から特に付言する。
第一点は、本賞の振興にかかわる点である。永田氏の著作は、選考対象数とはかかわらずきわめて優れた著作であることは委員の一致した見解であるが、もっと積極的な応募を求めたい。またこの点に関し、常任委員会からは「国語国文学の研究の推進のために、特に若手研究者を顕彰することを目的とする」規程条項に鑑み、選考委員は本賞にふさわしい著作の発掘に意を用いることを含みとするよう要請があり、選考委員会もこれを委員任期中の職務とすることで、共通理解を得たところである。
また第二点、本賞の選考経過にあたって浮上した二三の問題点については、六月大会の委員会ならびに総会の議をへて、既に学会賞規程の改正によって是正されたことを付記する。
第三回全国大学国語国文学会賞 平成20(2008)年度
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小川靖彦氏 (青山学院大学教授) 『萬葉学史の研究』 (おうふう刊、2007年) |
■第三回全国大学国語国文学会賞選考経過および選考理由
選考委員長 神野藤昭夫
最初に選考経過について述べる。
第三回全国大学国語国文学会賞選考委員会は、平成20年3月29日に、和洋女子大学東館16階会議室を会場として開催した。
今年度の選考委員は、岩下武彦(中央大学)、原岡文子(聖心女子大学)、千艘秋男(東洋大学)、渡辺憲司(立教大学)、糸井通浩(京都光華女子大学)の各教授。選考委員長は、規程により、総務(企画)担当の常任委員である神野藤昭夫がその任にあたった。
選考にあたっては、選考委員には、推薦による候補作の査読をお願いし、欠席の委員からは、意見ならびに委任状を提出いただき、候補者の候補資格について審議ののち、その著作について慎重、厳正、かつ忌憚のない意見交換を行ない、次の方を、第三回全国大学国語国文学会賞の受賞候補者とすることに、委員の総意として意見の一致をみたところである。
受賞候補者 小川靖彦氏(青山学院大学文学部日本文学科教授)
1961年12月6日生
受賞対象作 『萬葉学史の研究』(おうふう 2007年2月24日刊)
選考委員会の選考結果は、ただちに同日に開催された常任委員会において、受賞候補者の承認を得たところであり、その結果は、平成20年6月7日の委員会で報告されることによって、正式決定の運びとなったところである。
なお、選考委員会および常任委員会においては、選考に先立って、候補者としての基礎資格、すなわち規程第三条「本賞の受賞対象者は、本学会会員で、原則として四十五歳までの研究者とする」の条項について協議を行ない、小川靖彦氏が受賞対象作を刊行された時点において四十五歳であることを確認し、条項に適合するとの判断の上にたって、選考審議、承認を行なったことを申し添える。
次に選考理由について述べる。
受賞作は、
序章 萬葉学史の研究とは何か
第一部 萬葉集写本史の新しい視点
第二部 日本語史・日本文学史のなかの萬葉集訓読
第三部 仙覚の萬葉学――十三世紀における知の変革――
第四部 仙覚の萬葉学の行方
終章 萬葉学史の研究の課題
から成り、さらに
・平安時代の『萬葉集』写本年表
・仙覚略年譜
および索引を付した、634頁に及ぶ著作である。
本書の意図は、『万葉集』の研究の歴史を、現代とは異なる研究のありかたを示すものとして、歴史的に、その背後にある文化や知の構造にまで遡って明らかにすることをめざしたものである。このような意図は、本書を、たんなる『万葉集』研究の歴史をこえて、歌集と政治のありかた、「古代」像の変貌、古典を取り巻く文化的ネットワーク、「思想」としての学問、「書物」というものが具現する聖性と権力など、日本の文学史、思想史、言語史、書物史などにあいわたる研究領域を切り開くことに繋がるものとしている。
すなわち、このような新たな〈知〉の観点に立つことによって、本文の書写形式・本の装丁などの書誌的観点や、本文訓読と仮名書き本文との関連、仮名文字による表現の問題などの国語学的観点、新たな資料の紹介とその位置づけなど、多様な方法、視点から広汎な考察を展開しており、しかも、その一貫した実証的な態度と緻密な論理構成のもとに得られた成果は、いずれも精細で独創性に満ちた内容であると評価できるものである。
このような本書の業績は、万葉集研究ばかりでなく、広く日本文学研究、さらには歴史・思想・古筆などの諸領域に寄与し、新たな研究を刺激するものとして、全国大学国語国文学会賞に、まことにふさわしいものということができる。
以上が、第三回全国大学国語国文学会賞の選考経過ならびに選考理由である。
第二回全国大学国語国文学会賞 平成19(2007)年度
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上原作和氏 (青山学院女子短期大学非常勤講師) 『光源氏物語 學藝史 (翰林書房刊、2006年) |
■第二回全国大学国語国文学会賞選考経過
選考委員長 宮崎莊平
第二回本学会選考委員会は、平成19年3月1日、東京グリーンホテル水道橋「瑪瑙の間」を会場として開催された。出席委員は、委員長 宮崎莊平(本学会常任理事・新潟大学名誉教授)のほか、永井和子(中古・学習院女子大学学長)、千艘秋男(中世・東洋大学教授)、渡辺憲司(近世・立教大学教授)、清田文武(近現代・放送大学客員教授)、飛田良文(国語・国立国語研究所名誉所員)の方々、公務欠席、岩下武彦(上代・中央大学教授)委員。
推薦・応募の選考対象者について、①会員であること、②45歳未満の若手研究者であること、③対象刊行物が規定期間(平成16年10月1日~同18年9月30日)内の刊行であること等、資格を確認の上、選考審査に入り、各委員が事前に査読したことに基づき意見交換を行いつつ進めた。欠席の委員には「選考意見書」を提出願い、委員長から席上紹介し、参考とした。
選考対象の刊行物はいずれも豊かな特徴を有しているために、容易には優劣を決しがたく、時間をかけ慎重に結論を導き出すことに努めた。その結果、上原作和『光源氏物語 學藝史 右書左琴の思想』(平成18年5月20日、翰林書房刊)を受賞候補とすることに意見の一致を見るに至った。
音楽受容史・日本漢籍受容史を論じる第一部に始まり、『源氏物語』の文献学的研究と本文研究の現状を考察する第二部、続いて『源氏物語』と古代音楽との関わりを論じる各論を配する第三部、そして紫式部の伝記考証に関する第四部から構成されている上原氏の当該著述は、これら全体を通じて、出典論・作家論・歴史社会学などの諸成果を踏まえつつ、「光源氏物語」の成り立ちと仕組みを究明するものである。そのなかで特に、『源氏物語』と古代音楽、例えば琴曲「胡苛」との関わりを探るなど、影響関係を考察し、それを本文解釈に及ぼす等々、視野広く、かつ躍動的な論述を展開するところに顕著な特徴が認められる。著述の標題に「右書左琴」とあるが、その思想さながらに、文学と音楽との交渉関係について事実考証と出典考証が意欲的になされている。これらの特徴が評価されて、受賞候補として選考委員の意見の一致をみたのである。とともに、ややもすれば停滞しがちな研究の現状打開への旺盛な意欲が認められること、研究状況の一層の活性化を促す要素を持ち合わせていることなども併せ評価された。
上のごとき選考委員会の結論を受けて、平成19年4月14日開催の常任理事会で議事として審議の結果、最終的に決定をみたのである。なお、授賞式は平成19年6月3日、二松学舎大学を会場として開催された夏季大会で行われ、中西進会長から賞状ならびに副賞が授与された。
ちなみ上原作和氏は、昭和37年(1962)11月生まれ、45歳。大東文化大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・名古屋大学)。現在、青山学院女子短期大学講師(非常勤)。
第一回全国大学国語国文学会賞 平成18(2006)年度
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津田眞弓氏 (日本女子大学非常勤講師) 『山東京山年譜稿』 (ぺりかん社刊、2004年) |
■第一回全国大学国語国文学会賞の選考経過
選考委員長 飛田良文
学会賞選考委員会は、平成18年4月1日、東京グリーンホテル水道橋「瑪瑙の間」において、開催された。出席者は、委員長:飛田良文、委員:上野誠、永井和子、浅見和彦、清田文武、オブザーバー:宮崎莊平、日向一雅(以上常任理事)、欠席者:山下一海(委員、病欠)である。
まず、選考の進め方について意見を交換して意見の一致をみた。
一、手順については、①応募者が全員本学会員であること、②いわゆるダブル受賞も認めること、③年譜や索引等も選考の対象とすること、④受賞者は一名に限ること、を確認し合意した。
二、授賞に「ふさわしい」ことの順位の決め方(基準)については、①独創的発想・構想、②正確さ・明快さ・明晰性、③新しい分野の開拓と将来性、とする。いいかえれば自立した研究者としての研究成果が示されていること。
三、最終決定の方法については、合意をめざして審査を進めることとし、投票する場合は一人一票で候補を選ぶこととした。意見が分かれ同票の場合については、委員長に委ねることで合意した。
次に、応募作品四点については、いずれも「ふさわしい」と評価されたので、委員長宛に提出されていた全委員の審査評をもとに、当該委員が説明し、つづいて全委員が意見を述べた。その後、応募作品を見渡して第一候補と第二候補を挙げ、その結果、津田眞弓著『山東京山年譜稿』(ぺりかん社、平成16年5月刊)を第一位と決定し、全員合意した。
『山東京山年譜稿』の特色は、大別して次の五点にある。
一、山東京山の伝記と著作の全容を示した最初の年譜である。山下一海委員の言葉を借りれば、前人未踏のものである。
二、京山は合巻の最長・最多の作者で、活動期間が合巻の歴史とほぼ一致する。したがって、本書は京山書誌にとどまらず、合巻史の中枢をなし、半世紀に及ぶ出版文化の変遷が読みとれる。
三、京山の活動(商売・篆刻・茶道)と交友範囲(大名家・文人・地方)の広さは、身分を越えて交流する江戸文化の諸相を反映し、周辺人物の伝記研究を補完する。山東京伝・曲亭馬琴・鈴木牧之など。
四、山東京山像を再構築し、通説の誤りを正した。例えば、「北越雪譜」の成立に関する通説、兄嫁を死に追いやったという通説、など。
五、近世後期の戯作に対する新しい評価軸を提示した。京山らしさは、平易さ、温かさ、温和な教訓性、企画力などにあることを肯定的に評価した。
以上から、選考委員会は『山東京山年譜稿』を学会賞に価すると認め、合意の上、決定した。
文学・語学賞
平成21年度(2009)発行『文学・語学』
佐藤友哉氏 「『に』受身文と『によって』受身文の成立条件」 『文学・語学』第196号(平成22年3月) |





