小松左京作品紹介


小松左京研究会




傍線部をクリックすると各作品のあらすじを見ることが出来ます

長編

日本アパッチ族
エスパイ
明日泥棒
果しなき流れの果に
継ぐのは誰か
日本沈没

メニュー画面へ戻る



日本アパッチ族



初出:光文社カッパノベルス(書き下ろし)1964.3
収録:角川文庫(1971.9)・新潮電子文庫(1994.1)


あらすじ


 敗戦後、スクラップしかない廃墟に力強く生き抜く者たちの姿があった。鉄食人間「アパッチ」である。 最初はわずかな勢力でしかなかったアパッチたちは次第に全国に広がり、経済、政治までまきこむ、ドタバタ騒ぎに発展していく。
 そして、ついには軍隊と―いや現存人類とアパッチの、核ミサイルをもひっぱりだす、全面戦争にまで発展するのである。


 憲法が大幅改正をうけ、秩序の維持の名の元に、基本的人権をも制限された時代。
 課長の鼻をひっぱって失業した木田福一は「失業罪」に問われ追放される。  追放地は大阪市のド真ん中。
 とはいえ、そこは高圧電流が流れる鉄条網に囲まれた荒れ野。飲み水といえば赤サビに染まった水たまり、食べられそうなものは、野犬の群れだけ。
 それに犬たちのほうも腹を空かせているのは同じだ。食われるのは、どちらかわかりはしない。
 ただ、タップリあるのは屑鉄だけ。
 追放地からの脱走に失敗して意気消沈し、野犬のエサになろうとした所を、木田は一人の男に助けられる。
 木田の前に、酸で煮込んだ軟鉄製のワッシャーがさしだされた。空腹のあまり、木田はそれを食った。彼はアパッチになったのである。
 この劣悪な環境の中で、アパッチはスクラップを喰らい、力強く生きていた。 金属を常食とする鉄食人間であるアパッチたちにとって屑鉄の原は豊かな食料庫なのだ。
 木田はアパッチたちの間に身を投じ、アパッチとして生きていく事を決意する。 とは言うものの、アパッチとなっても、のうのうと暮らしていけるものではなかった。当局はアパッチたちから、鉄屑をも取り上げようと、大々的に弾圧を開始した。
 追放地に、機甲大隊が投入されたのである。
 だが、当局のもくろみ脆くも崩れ、アパッチ狩りの緒戦は、当局の徹底的な敗北に終わった。
 それこそ、鋼鉄の肉体を持つアパッチに生身の人間がかなうわけはなかった。たとえ武装した兵隊、戦車が相手でも、アパッチにとっては鉄の塊―食糧にすぎない。
 戦いは始まったばかり。最初に勝利したとて、アパッチは小数、たかだか六百人しかいない。それにひきかえ、敵は一国家である。
 アパッチは追放地を抜け出すと、その戦いを外の世界に展開する。
 アパッチたちは国のやり方に満足はしていなかったし、他の人々も同じだった。 さらには東京の鉄食人間「鶴見の鉄食い」が発見され、共闘が実現する。
 普通の人間の中にも、アパッチに手をかす者、そして自ら鉄を食い、アパッチと化す者も現われ始めた。
 当局は弾圧を加え続けたが、木田の旧友の新聞記者の力をかりた情報戦略、さらには、大酋長、二毛次郎の巧妙な作戦により、かれらは次第に有利になっていく。
 かつては一追放地での、ちょっとしたいざこざでしかなかったアパッチ問題はついに社会問題にまで発展する。
 そして、ついに浮浪者や犯罪者の集団でしかなかったアパッチは、一人前とはいえないが、市民権を獲得していった。 与えられた、居留地に留り、そこでおとなしく暮らすこと……。
 だが、一見正当そう見えるこの居留地にも、ちょっとしたカラクリがあったのである。
 アパッチたちの排泄物はほぼ純粋な鉄である。これは商売になるのである。  だが、アパッチたちにとっては、問題となる事ではない。それどころか、アパッチの立場がはっきりするというものだった。
 この事が日本の鉄鉱産業に少なくない影響を与えた。
 居留地から、単なる廃棄物として処理されるべきモノが、膨大な設備投資のうえに成り立っていた大産業を圧倒してしまっていたのだ。
 居留地も定まり、産業界の一環に組み入れられる事により、一応の小康状態が訪れる。
 だが、アパッチが政府の作った規則に縛られるだろうか? まさか! そして、当局も和解するようなタマではない。
 当局は、アパッチを居留地だけに押し留めようとする一方「アパッチ非合法化法案」を成立させようとする。
 そして、それ以上にしびれを切らした軍隊がク―デタ―を起こして現政権を倒すと、居留地に対して攻撃を仕掛けてきたのである。
 戦いは、しだいにエスカレ―トしてくる。そして、軍隊と―いや現存人類とアパッチの、戦いにまで発展し、ついには核ミサイルをもひっぱりだす騒ぎになるのである。

 担当 青山智樹


先頭へ戻る 目次へ戻る 次の要約へ進む





エスパイ



初出:漫画サンデー 1964.4
収録:角川文庫(1977.5)・勁文社文庫(1991.4)


あらすじ


 透視、念力、精神感応、予知など、いくつもの超能力を持つ田村良夫はエスパイと呼ばれる国際的な秘密組織の一員だった。エスパイとは破壊者の手から世界を護ることを目的として、超能力者によって組織された影の組織である。
 田村はボスの命令によりニューヨークで仲間と会い、金髪の美女マリア.トスティと知合いになった。田村はエスパイの最高指揮者P.Bから任務を知らされた。彼に与えられた任務とは、ソ連首相暗殺計画の阻止だった。
 現在、世界の情勢は軍事的な緊張が続き、1960年代にケネディとフルシチョフが綱渡り的な政治をしていた頃の状態に近かった。世界的な不況やヨーロッパの国家元首の暗殺。米ソ両国の東西両ブロックからの孤立といった状況で世界はバラバラになりかけていたのだ。
 ところが現アメリカ大統領の就任により、世界は統一の方向に向かい始めたのである。大統領は東西二つの世界に橋を架けるため、その良き理解者であるソ連首相と手を組んで全面軍縮をやろうとしていたのだ。しかし、それを阻止しようとしている者がいた。
 田村は敵の暗殺計画を阻止するため、マリアと共にVTOLでトルコの首都アンカラへ向かった。この飛行の間に二人は機上で親密な仲になったのだが、ここにも敵は攻撃をくわえてきた。その攻撃をかわした田村達はアンカラで仲間と合流してソ連首相暗殺計画の情報を握る情報屋の(通称)ボールの元に向かった。敵に動きを掴まれていたため、ボールの身柄をイスタンブールへと移したが、ここにも敵は現れ、ボールは殺されてしまった。田村はその犯人を捕まえようとしたが、不思議なことに犯人はホテルの窓から落ちる瞬間に忽然と消え失せたのだ。そのうえマリアも敵の手に落ちてしまった。全ての鍵は失われたかに見えたが、仲間が死ぬ瞬間のボールの心から情報を得ていたのだ。
 田村はマリアの居場所を突き止めて敵のアジトに潜入するが、彼自身敵の手に捕らえられてしまう。田村は身体の自由を奪われたまま秘密ショーを見せられたのだが、それに出演していたのは彼の愛するマリアだった。マリアは田村のことさえ判らず、強力な麻薬で精神の自由を奪われたまま舞台の上で犯されたのだ。田村は愛するマリアが犯されるところを目の当たりにしたうえ、三〇〇〇ボルトの高電圧を生身の体にかけられ気を失った。
 田村は敵の司令リンツ伯爵からエスパイの秘密をばらし仲間になるよう誘われるが断わり、そのため拷問を受け、鋼鉄の箱に閉じ込められて地中海に沈められてしまった。念力を使って脱出を図ったが、拷問で体力を消耗していた彼は力尽きて海のそこに沈んでしまった。
 だが仲間の潜水艦に助けられて九死に一生を得たた田村は、オデッサでキーロフ最高会議議長がボディガードに撃たれて重傷をおったことを知らされた。事態は切迫しており、田村はウイーンへ飛ぶように命じられた。この時田村の頭の中に、「ヨハネスブルグ」という言葉が浮かぶのだった。
 田村はウイーンでサラバット師から電撃の影響で意識波の基礎振動数が変わったことを伝えられ、……おまえの未来がかわったと言われた。この後、敵のアジトに侵入した田村はアジトが爆破に巻き込まれる瞬間にいつの間にかアジトの外に現れていたのだ。田村は自分自身に何が起こったのか判らないまま、西ドイツに向かった。田村達が西ドイツのニュールンベルグに向かっている間にも世界情勢は目まぐるしい勢いで動いていた。本物のソ連首相は東独首相と東ベルリン市長の出席するレセプションの席上で”雪解け”を讃え東西ドイツの統一の用意があると発言していた。それと呼応するようにアメリカ大統領は東南アジアから派遣中の軍隊をひきあげると発表していたのだ。
 ニュールンベルグで再会したマリアは強力な麻薬を与えられた影響で、病み上がりのようだった。田村はそのあまりの変わりように驚くのだった。
 ベルリンで田村は、全身銀色づくめの女の催眠術に陥り捕らえられてしまう。出口のない地下四〇メートルにある部屋で眼を覚ました田村は、シルバーナと名乗る敵のヨーロッパ組織の最高責任者から、敵のボスが精神移送で送り込んだことを知らされた。そして田村は自分がいつの間にか身に付けていたテレポート能力によりそこを脱出した。
 敵はある男を暗殺者にしたてて、そいつをおとりにしてソ連首相を狙っていた。田村は仲間と共にその男を捜している最中、西ベルリンの街で顔見知りの商社マンの吉野と出会った。驚いたことにとなりには死んだはずのシルバーナがいた。驚いた田村にシルバーナは自分の紹介を始めた。彼女はシルバーナの双子の姉ジュリエッタだったのだ。
 田村は吉野を人質にされジュリエッタの経営するカジノへ連れて行かれた。そこで田村は驚くべき物を見た。発電用の加圧水型原子炉が地下深く設置されていたのである。カジノでジュリエッタは無益な戦いを止めて共同することを提案してきた。これまでの戦いはエスパーの利益のためだと言うのだ。自分達は超人類なのだから人類の頂点に立つべきなのだ。そのためのソ連首相暗殺計画だと言うのだ。その時、田村は透視能力で人質の吉野が脱走したのを知利、彼の元へ精神移送するのだった。そして、田村は吉野を地下にあった庭園の中に逃がした。田村は精神移送の超能力を使って攻勢に出たが、ジュリエッタは壁に消えるように姿を消してしまった。
 その翌日、エスパイ達は万全の体制でソ連首相の演説の護衛をおこなっていたが、捕まえられていた仲間が突然空中に出現し、それに気を取られた隙にソ連首相は狙撃され、胸部と頭部に弾丸を受けて倒れた。だが、ソ連首相は演説台の下に隠れていたサラバット師の超能力により救われていたのだ。
 エスパイ達はジュリエッタを追い詰めた。だが彼女は地下の庭園と共に消え失せた。翌日、田村の元に西ドイツの日本大使館から連絡が入った。カジノで地下庭園とともに消えた吉野がマダガスカルに現れたと言うのだ。田村はこの事から敵がワープ装置を作り上げたことを知り、マリアと共にワープ装置のつないだ空間へと入って行った。
 二人はいつの間にか、以前田村の脳裏に突然浮かんだ南アフリカのヨハネスブルグにいた。ここで田村達はジュリエッタが失敗の償いに敵のボスに殺されたことを知る。そしてそこには人工衛星追跡用の無人ステーションがあった。田村とマリアはそこに向かった。だが、ステーションは無人で誰一人いなかったのだ。ところが田村は一瞬、何か邪悪な気配を感じた。調べると無人衛星が現れる周期とその邪悪な気配が現れるのが同じだったのだ。田村はマリアが止めるのも聞かずに精神移送の超能力を使って宇宙空間の無人衛星に向かった。そこで田村が出会った敵のボスの正体とは……。

先頭へ戻る 目次へ戻る 次の要約へ進む





明日泥棒



初出:週刊現代 1965.1
収録:角川文庫(1973.5)・勁文社文庫(1991.11)


あらすじ


 ボク戸田雄三はその日恋人のネネ子と喧嘩した。うさばらしの方法には色々あるだろうが、高いところに登るとのは、最も手近なひとつだ。
 ぼくは横浜の港の見える丘にいた。そして奇妙な奴ーーゴエモンにあった。
 彼は身の丈一メートル五〇そこそこの中年男で脂ぎった顔はいやに横幅が広く、ガマみたいに大きな口をして、鼻の下にうすいひげをショボショボとはやしていた。鼻は堂々とあぐらをかき、銀ブチの眼鏡をかけたいやに大きく飛び出した眼は上下薮だった。右の目玉が上を向き、左の目玉は下を向いている。
 頭には時代物の山高帽をかぶり色の変わったモーニングを着て、下が小倉のはかまに下駄ばき、おぶひもを十字にかけて背中にコウモリ傘を背負っている。手に買物袋を持ち中には黒い四角な箱が入っている。言葉はごちゃまぜな方言だった。
 そしていつの間にか彼を自分のアパートに連れてきてしまっていた。
 それもタクシーをつかまえたところ、横浜から世田谷までわずか四五分で着いてしまっていた。運転手は頭を抱えていた。
 走行距離にして二キロ。ゴエモンは言った。
「われは超空間航行になれとりゃせんだっけ?」

 ゴエモンを家に連れて行った。というより、家まで付いて着てしまっていた。
 喧嘩したはずのネネ子がいて騒ぐ。工事はたけなわ、たちまちぼくのまわりは騒音に包まれた。
 あまりのうるささにゴエモンが「やかまスー」といった。その瞬間、音が聞こえなくなった。
 これが大騒動の序曲だった。
 音がなくなったのは、ぼくの回りだけではなかった。世界全体にまたがる現象だった。
 このサイレントベルトは日本列島の真上を通る幅六百キロのベルト状のもので地球をすっぽりおおっていた。
 そしてこの瞬間日本はあっというまに死の沈黙におおわれた。
 音が聞こえないため日本中は大騒ぎになった。凶悪犯罪が増えもう少しで核戦争がおこるところであった。
 その間ゴエモンは眠りっぱなしだった。三日間も。
 腹をたてたボクは彼をけとばしたつもりが買物袋をけとばしてしまった。とたんに頭の中がワアンと鳴りだしゴエモンがいった。
「よくねた、腹へった。もう朝か」
 音が戻ったのである。
 ボクはその日以来ずっと休んでいた。そして思いあまって会社に電話すると「クビにするぞ」といわれた。腹がたって「クビにするなら消音現象の原因をライバル社にもちこむ」と反撃した。
 ぼくには消音現象の正体がわかっていた。ゴエモンである。
 そしてゴエモンをかこみ、重役会議が開かれた。社の重役たちはゴエモンにゴマをすってなんとか消音現象の秘密を知ろうとし、ゴエモンを重役専用の寮に連れて行こうとした。ところが行く箱根山中で、途中何者かに襲われゴエモンはさらわれ、事態は急展開した。
 だが、ゴエモンは自分で帰ってきた。誘拐犯はCIAだった。
 ゴエモンは社長の友人、政界の黒幕と言われる田村大三の天皇に会わせてくれるという言葉を信じて自分の技術や能力を貸すことにした。ボクとネネ子はゴエモンの付添いを命じられた。
 ボクはある日、彼の首の付け根の所に眼も鮮やかな鰓穴があるのを見てしまった。それだけではなく、ゴエモンの指は六本あった。
 ゴエモンは田村大三にたのまれて世界中の爆発物を無効にしてしまった。
 ミサイルは不発だし、鉄砲の弾もでない。未開地の戦乱で、最新装備の軍隊が弓と矢の相手に全滅させられてしまう。
 アメリカは日本政府に対して圧力をかけてきた。事態を見越していた田村大三は以前から持っていたA−城にたてこもった。
 だが、アメリカも負けてはいない。自衛隊を先頭に、とてつもない原始的な方法で攻め込んで来た。最新鋭の爆撃機から、ただの石をぶつける「石爆」である。
 そして油もガソリンもすべて使えなくなってしまった。そして、ゴエモンも消えていた。
 二ヶ月がたち石油産業の倒壊にともなう経済恐慌もおちつきを見せた頃、ボクはゴエモンとはじめて出会った場所にゴエモンと再び出会った。
 自動車の「死骸」があちこちにあり、黒煙をあげる汽船、蒸気機関車の汽笛がひびいていた。
 ゴエモンはむかえがくるので帰るといった。
「このままにして帰るのか。きみは人類の絶滅の危機を消滅させると同時に人類の明日をも奪ったんだ」
「殺しあいもようやめん種族がヘタに科学文明だけをつみあげたら−自滅するだけや。自分で自分の明日を泥棒しているのは人間自身ではないか。どうしてもというのなら油も火薬もいっしょくたに凍結解除しまっせ。どちらにしやす?」
 もし君だったら−どう答えるか?

先頭へ戻る 目次へ戻る 次の要約へ進む





果しなき流れの果に



初出:SFマガジン 1965.2
収録:早川文庫(1973.3)・角川文庫(1974.6)・徳間文庫(1990.3)
収録:小松左京コレクション2巻(ジャストシステム1995.10)


あらすじ


 地球、中世代白亜紀。降りしきる火山弾の中、剣竜を倒したティラノザウルス・レックスは、不思議な物音に怒り狂う。それは洞窟に隠された、金色の電話機の鳴る音であった。

 N大理論物理学研究所の大泉研究室に、K大の番匠谷教授が奇妙な物体を持ち込んだ。いつまでも砂の落ち続ける、不思議な砂時計である。大泉教授の助手、                        カツラギ
野々村は、番匠谷教授とともに、砂時計の発掘された葛城山の古墳に向かった。だが、古墳の調査を行ったときから、野々村をふくめ、関係者は次々と失踪し、あるいは死んでしまう。
 野々村の恋人である佐世子は、ひとり彼を待ち続ける。いつか年老いた佐世子は、旅の老人とともに暮らすようになるが、やがて二人も死んで、事件は終了する。だが、時は果ても知らず、流れさっていくのだった。

 25世紀。軌道エレベータ上にある超科学研究所で、古ぼけたTVセットの研究が行われていた。亡霊が現われ、未来から干渉してくる2つの勢力について警告するのだ。が、亡霊の名がバンショウヤ・タカノリであることを知った工作員に資料衛星を破壊され、研究は長く滞ることになる。

 時空を越える進化管理機構の超意識体、アイは、超科学研究所の破壊からもどり、第26空間の「収穫」に向かう。全宇宙に存在する全ての「意識」は、この管理機構によって育てられ、あるいは断種されるのだ。
 第26空間に存在する地球は、太陽の異常で、いましも終焉を迎えようとしていた。「宇宙人」を装ったアイたち「審判者」は、破滅に瀕した太陽系から多くの地球人たちを円盤でつれ去る。超能力を持つ人間を選別し、進化の階梯を進ませるのだ。
 だが、管理機構に敵対するグループがいた。あらゆる変化のベクトルに対する抵抗力が形象化された存在である、“ルキッフ”をリーダーとした反逆者たちである。管理機構から逃れた野々村も、その一人となっていた。彼らは、「収穫」のどさくさにまぎれて多くの人材を味方に引き入れる。

 第26空間から超越者に選別された人々の一部は、別の時空間の火星にあるシトニウス基地に移される。その一人である松浦は、基地が反逆者の襲撃によって崩壊したとき、超意識体アイにその意識を吸収される。
 松浦を吸収したアイ・マツラは、反逆者たちを追跡し、次々と捕らえていく。 ルキッフが後継者に指名した野々村は、超越者のニューヨーク支部を襲撃した後、円盤に攻撃され、白亜紀の地球にはじき飛ばされるが、時間機を修理し、未来に向かうのだった。
 一方、アイ・マツラは、自分でも理解できないほどの異常な執念で野々村を追う。地殻変動で海中に没した日本からの難民の末裔が移民したアルファ・ケンタウリWまで出向くが、彼を発見できない。全宇宙のすべての可能性の結節点に網を張ったアイは、白亜紀の地球で野々村の足跡を見つけ、追跡する。
 紀元前2世紀、7世紀、15世紀、と追跡は続いた。だが、同志に助けられ、野々村は未来へ逃れる。
 45世紀。鯨座第5惑星で超越者たちに追いつめられた野々村は、3台の時間機のエネルギーを、一台に集中するという自殺的方法によって脱出を図るが、恐ろしい速度で超空間につっこみ、意識だけの存在となる。

 全宇宙の進化管理を認識できる場にたどりついた野々村は、追いついたアイ・マツラに吸収される。そのとき、アイの中に存在する松浦と野々村の意識が激しく共鳴し始め、アイは、初めて、自分がなぜ野々村にひかれたのかを知る。
当人同志は知らなかったが、野々村は、松浦の子供なのだった。
 二人の共鳴に、アイ自身の秩序が共振を起こし、アイは超空間に直行する方向に上昇を始める。階梯概念に逆らい、果てしなき流れの果てにあるものを求めて、アイは、問いを高みに投げ上げる。
 超意識は?、超意識体は?、進化管理の意味は?、階梯とは何か?
 アイは、自分の属する大宇宙が、超空間において逆行宇宙として認識される、もう一つの別の宇宙とともに、新しい可能性をはらんだ第3の宇宙を生み出しつつある姿をかいまみるが、力つきて超意識体としての秩序を保てなくなってしまう。

 そして、2016年、スイス、ベルンの国立病院で、50年の間眠り続けた謎の遭難者が目覚める。すべての記憶をなくしていた彼は、自らの帰属する場所を求めて世界をさまよううち、野々村を待ち続ける佐世子のもとに身を落ちつける。 今は老齢の身となった佐世子にせがまれ、彼は、おぼろな夢の記憶を話し出すのだった。「それは長い長い……夢のような……いや……夢物語です……」

先頭へ戻る 目次へ戻る 次の要約へ進む





継ぐのは誰か



初出:SFマガジン 1968.6
収録:早川文庫(1974.8)・角川文庫(1977.5)・勁文社文庫(1990.10)
収録:小松左京コレクション2巻(ジャストシステム1995.10)


あらすじ


 チャーリイを殺す……。
 どこからともなく、そんな予告が届いたのは、ぼくたちが「人類は完全ではない」そんな何度目かの議論にかかっていたときのことだった。
 そして、二度目の予告。最初のそれは、夢の中の出来事ように、意識の隅に引っかかっていだけだったが、今度のは間違いではなかった。チャーリイを殺す。
 国際科学警察の介入を見ても、チャーリイ自身は予告を信用しなかった。
 だが、各国の大学で、同じような事件が起こっていたのだ。罪のない学生が、不自然な死をとげる。
 チャーリイが自分の研究で、人類の進化の方向を模索し、ひとつの結論がでようとしたとき、科学警察の、そして仲間たちの努力も甲斐なく、彼は不自然な感電死をとげる。
 全ての鍵は電気にあった。予告はヴィジホンを通じていた。不可解な感電死。作業ロボットの遠隔操作によるサボタージュ。
 事件は急速な終結を迎える「「少なくとも、チャーリイの事件は。あぶりだしの罠にかかり、追い詰められた犯人が、大電流のターミナルに触れ、死亡したのである。
 事件は解決した。にもかかわらず、事態は急変して行く。
 犯人の遺体が解剖に付された結果、彼は、人間「「ホモ・サピエンスではない事が判ったのである。犯人は体内に蓄電器官を持ち、自由自在に電気を操る、新種の人類、言わばホモ・エレクトリクスだったのである。
 物語は犯人の出生を追って、南米に飛ぶ。
 そこで主人公たちは、現地人に「森の神」と呼ばれる一団と接触する。
 かれらこそが追い求めていた電波人間だったのである。だが、与えられたメッセージは「立ち去れ」
 「森の神」「「ククルスクたちは極度に独立性の高い孤高の一団である。電気を自由自在に操り、体内にレーダーを持つ者たちを追うのは、至難を極めた。
 だがククルスクたちの団結も一枚岩ではなかった。伝染病に冒され、隔離された一群が接触を取ることを良しとしたのである。
 現有人類より優れたククルスク達にも、弱点はあった。高度に組織化された文明を持たなかった。高度な医療を持たなかったのである。
 周期的に発生する疫病が、ククルスク達全体に蔓延しようとしていた。
 主人公たちはククルスクと一定の取り引きをするとともに、特効薬とも言えるDNA作用剤を与える。
 だが、現有人類には些細な影響しか与えなかった作用剤が、異なった遺伝子構造をもつククルスクたちには、とてつもない副作用をもたらしたのである。
 種の存続を危うくするような危機に遭遇したククルスクたち。現有人類より優れた資質を持つかれらは、種を維持できるのだろうか。
 そして、人類を継ぐのは誰なのだろうか?

先頭へ戻る 目次へ戻る 次の要約へ進む




日本沈没



初出:光文社カッパノベルス(書き下ろし)1973.3
収録:文春文庫(1978.9)・徳間文庫(1983.12)・光文社文庫(1995.4)


あらすじ

 小笠原諸島の北で、最頂部が70mもある島が沈んだ。振動も鳴動もなく、一夜にして、なめらかに。調査に向かった地球物理学の田所博士と深海調査艇「わだつみ」の操艇者小野寺が見たのは、深度7000mの日本海溝の斜面からもくもくと噴出し、泥雲をおしやり、波立たせている大規模な海底乱泥流の姿だった。
 日本列島には何かが起こりつつあった。第二新幹線の工事難航、東名高速道路での橋の崩壊事故、そして各地の火山活動の活発化と地震。そんな中で小野寺は阿部玲子と出会う。だが、二人のロマンスも天城山の噴火によって水を注された。翌日、地震と津波の被害をうけた陸上を避けてホバークラフトで東京に向う小野寺に、地震よりも「もっと大きなもの」を描き出すためのデータを求める田所博士からの連絡が入った。「....妄想かもしれん。だが、気がかりでならんことがある」
天城山噴火とそれに続く浅間山噴火を受けて、政府は秘密裡に公聴会を開いた。その公聴会で、周囲の冷たい目を無視して、田所博士は「過去の観測例の集積からだけでは、予測できない」まったく新しい現象が出現する可能性を指摘した。その発言は政界に隠然たる力を持つ渡老人の耳に入り、渡老人は田所博士に問うた。科学者にとって一番大切なものを問う渡老人に田所博士は答えた。「カンです」
 一週間後、田所博士の研究所に一人の男が現れ、フランスの深海潜水艇ケルマディックが買収され、調査のために提供されることが伝えられた。そしてその日、「京都大地震」が発生したのであった。
 田所博士、ケルマディックの操艇者となった小野寺、そして情報現象論の天才中田らを中心とした「D計画」が発動され、日本列島における異常事態を解明するための大規模な調査が開始された。それとともに、社会の裏側では最悪の事態に備えた密やかな動きが生じ始めていた。やがて田所博士は、「D計画」のメンバーの前で自らが危・する最悪の事態を明らかにした。一見ゆるぎないかのように見える大地も、直径50cmの風船の0.2mmの皮膜に過ぎず、その大地は極めてゆっくりと対流するマントルの上に浮かんでいる。そして今、日本列島の地下ではマントル対流が急変する兆候がある。もし日本列島を支えるマントル流が変化すれば、支えを失った日本列島は海面下に沈む、と。声もないメンバーの耳に、さらに別の声が届いた。「関東地方に大規模な地震が発生しました。マグニチュード8.5」死者・行方不明者250万人。東京は機能を停止した。
 「東京大震災」を期に、「D計画」は大幅に増強され、がむしゃらな調査活動が押し進められた。日本政府もいまだ半信半疑ながら日本民族が生き延びるための対策に立ち上がり、各国に密使がとばされた。米ソを中心とする諸外国もまた、日本列島の状態に関心を持ち始めていた。社会不安が広がる中、大衆に危機を知らすための陽動作戦が企てられ、敢えて汚れ役を志願した田所博士は「D計画」の表舞台から姿を消した。
 「D計画」の本部では膨大なデータを用いたシミュレーションが開始され、解がはじき出された。変動発生時における日本列島の水平移動距離は35km、垂直移動はマイナス2km。そして変動発生まではあとわずか10カ月。事態は急を告げ、「D計画」も調査目的のD−1から、日本民族の救出を目的としたD−2へとシフトしていった。不眠不休の生活の中で、小野寺は玲子と再会し、玲子とともに国外に脱出することを決意した。だが、脱出の直前、玲子は富士山の噴火に巻き込まれ、消息を絶った。
 「日本が沈む」。この衝撃的なニュースは全世界を駆け巡った。国際社会においては、日本を救うための活動が本格化するとともに、日本沈没後の極東情勢を探るための諜報活動もまた激烈なものとなっていた。
 日本民族は日本列島からの脱出を開始した。船で、そして飛行機で。1億1千万に対して10カ月という残り時間は余りに短かったが、日本は「奇跡」に向かって死にものぐるいの挑戦を続けた。昼夜兼行、不眠不休で無謀なまでの活動を続ける救出組織の中には、小野寺の姿もあった。
 日本列島は沈んだ。帰るべき国を失った日本民族の流浪の歴史が始まる。
文責:大塚 成男

先頭へ戻る 目次へ戻る