『京都の若旦那コンピュータ奮闘記』

第3回ちょっと待て!電子出版

95.03



「中西印刷さんというのは電子出版には対応していらっしゃるのでしょうか」

古い得意先からこんな質問がとびこんできた。口あんぐりである。

「何をもって電子出版っておっしゃってるのでしょうか」

こっちは質問を返さざるをえない。電子出版といったって、あまりに範囲が広い。電算写植だって、電子機器を使ってるのだから電子出版といえないことはないし、DTPを日本語に訳すとき、「卓上出版」じゃあんまりだってんで、「電子出版」といったこともある。紙を使わない出版、CD−ROMやデジタルブックのようなものなら、はてしなく概念が拡散していってしまう。実際、お得意さんの方もよくわかっていないようだった。なんでも、別の印刷会社が営業にやってきて、「電子出版対応」ということをさかんに言うので、気になったというのだ。ごく普通の学術雑誌を出している得意先である。どうやら、件の印刷屋はCD−ROMのようなものを考えているらしい。

 ちょっと待ってくれよ。確かにCD−ROMは、今話題になっているけど、普通の学術雑誌に適応するには時期尚早もいいとこじゃないの。だいたい、写真をふくめての品質が保証できるわけないし、読者の持っている千差万別のコンピュータすべてにどうやって対応させる気なのだろうか。CD−ROMを配ったものの質は悪い、読めない人がいるっていうのではすぐ破綻してしまう。要するに現在、現実的な話ではあるわきゃないのだ。

 単に、電算写植データをデジタルデータに統合して、電子媒体で配布するというのなら、CD−ROMでもMOでもなんだっていいわけだ。テキストだけならフロッピーでも充分だろう。そのこと自体は別に電子出版だ、なんだと大騒ぎしなくても、電算写植セットと、ちょっとしたコード変換技術を持っているところならどこでもできることだ。確かに、CD−ROMを作成するためのツールぐらい持っているのかもしれないが、そのことと学術雑誌をCD−ROMで配布するというのは、現時点ではかけはなれた話だ。

 電子出版は確かに今後伸びていくだろう。しかし、今現実の時点でこれからなんでもかんでも電子出版化していって、紙の上の印刷が古いモノになってしまうかのような風潮はいただけない。今から10年前「10年後」という本が出版された。つまり10年前から現在を予測した本なのだが、その中ではっきり「ニューメディアの発展によって新聞は配達されなくなるか、部数が大幅に減る」といっている。そうなっただろうか。今のマルチメディアブームがいまひとつ盛り上がらないのは、10年前のニューメディアブームで痛い目にあった企業が多いからだと言われる。あのころのニューメディアは確かにひどかった。使いこなせないし遅いしという具合で、到底一般人の欲しくなるようなものではなかった。昨今の電子出版だってそうだ。はたして、今の日本にあるCD−ROMで読みたくなるようなものがあるだろうか。あるとしても値段が高すぎるのじゃないか。マルチメディアパソコンだって、まだようやっと家庭にはいりかけた段階で、どうやって使うのか、誰もわかってない。

 どちらにしても、今普通に印刷を発注しているところに、非現実的な電子出版で営業をかけるなんてのはやっぱり不謹慎だと思う。不謹慎だと思うけど、こういうやり方が許されてるんだったら、あしたっから、この手で営業をかけてやろう。

「えっ、おたくがお使いの印刷屋さんは電子出版に対応していらっしゃらない。未来がないですねえ。将来のために今から準備しとかないとだめですよォ」

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