『京都の若旦那コンピュータ奮闘記』

第52回 消えたロゴマーク 99.04



 いよいよ、画像データが、会社中を跳びまわる時代になった。ついこの間まで、版下の紙焼きやフイルムが右往左往していたのに、ついに画像もデジタル化だ。なんというすばらしい時代になったのだろう。どこからでも、データが跳んでくるのである。

「跳んできませんよ。データがどこにあるのか言ってくれなければ」

「ほらさあ、去年、あの仕事で使っただろうが、あのときのロゴマークのデータを使えばいい」

「確かにやりましたね。あれえ、どこへいったかな。あれはAさんがやって、Xのフォルダにはいってるはずです。Aさん、ちょっと調べてみてくれる?」

「ありませんよ。私、知りませんよ」

「あの仕事は仕事が混んできたんで、Aさんのデータをひきあげて、Bさんが、Cさんの機械でやったんじゃなかったですか」

「Bさんはどうしたの?」

「今日、休んでます」

 うーむ。この不毛なやりとりを聞いていて、どこかでこれと同じような経験をしたなと思った。そういえば、同じロゴマークだ。それも紙焼きだ。

 だいたい、ロゴマークの保管は紙焼きの時代でも苦労していた。クリアファイルなどに保存場所をきめておくのだが、一度持ち出すと、たいていなくなる。一度使ったロゴマークは版下から剥がして、元のクリアファイルに戻しましょうと、何度いっても戻ってこない。それならば、版下には貼ってあったはずだからと、担当していた営業を捕まえて、版下の保存場所を聞き出し、倉庫でほこりまみれになって保存版下を取り出す。そして、期待をこめてロゴマークのあった場所を見つめると、必要なロゴマークの部分だけ見事に剥がされていて脱力。こんな目に何度あったことか。

 電子データはそんなことはないはずだったのだ。LANを通じてデータだけをひっぱってくればいい。何も考えずとも、コンピュータの前に座っているだけで、ロゴマークが跳んでくるはずだったのだ。

 恥ずかしい話だが、要するに、全社LANで仕事をして便利だ便利だと言っている割に、データの管理がめちゃくちゃなのだ。特に、MACはなまじ早くからネットワークされていたばかりに、サーバーとクライアントの別が充分ではなく、データはおのおのの機械のローカルハードディスクに分散している。これが混乱の大元だ。しかも、機械のハードディスクの中身のフォルダ構造は、使っている本人でないとまずわからない。このあたりも、統一的な名前の付け方を決めるとかやりはじめてはいるのだが、一年も前だと、まるでお手上げである。

 もちろん、こうなりたくてなったわけではない。LANを導入するときには、サーバーとクライアントをわけるとか、データ管理をしっかりしろとか指導はしているのだが、社員にしてみれば、LANに慣れるだけで精一杯で、将来のことを考えてデータ整理をするところまでは思いつかなかったものらしい。なんとかしないといけないと思っていた矢先の事件ではあった。

 翌日Bさんが、出社した。

「あのロゴマークは、先方からなかなかまわってこないので、結局フィルムで貼り込んだんですよ。だからデータはないんです。たしか、こちらのクリアファイルに・・・あらないわ」

 おあとの準備がよろしいようで。





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